利用者のAさんは左半身の麻痺があり、身体機能の低下に伴い一般浴からリフト浴に変更になりました。
リフト浴のチェアベルトが硬くて冷たいので、Aさんは装着を嫌がります。
職員のシゲルさんは何度もベルトをするようお願いしましたが、頑として聞き入れず、仕方なくベルトを締めないままチェアを浴槽に降ろしました。
ところが、お湯につかる寸前でAさんがバランスを崩してチェアから落ちそうになり、大声を上げました。
シゲルさんが急いでリフトを止め、浴槽への転落は免れましたが、Aさんは恐怖心が収まらずしばらく震えていました。
翌朝、シゲルさんはヒヤリハット報告書を主任のミチコさんに提出しましたが、午後にAさんの娘さんが来所し、「昨日、父が浴槽に落ちそうになり、『怖いからもうデイには行かない』と言っている。
なぜ一言の謝罪もないのか?」と抗議しました。
管理者は「事故ではないので報告を受けていなかった」と答えましたが、娘さんは「安全ベルトを締めずにリフト浴の介助をしているのはおかしい」と市に苦情申し立てをしました。
「怖い思いをさせた」ことも被害の一つ
本事例では、Aさんは溺れることもなく、お湯を飲むなどの被害もなかったため、シゲルさんは「ヒヤリハット」と判断しました。
しかし、本当は「Aさんが強い恐怖を味わい、大きなショックを受けた」という被害が出ていたのです。
本来は事故として扱い、Aさんの精神状態を案じてショックを癒やすなどの対応をした上で、丁寧に謝罪すべきでした。
精神的ショックをあなどってはいけない
Aさんは、宙に浮いたチェアの上でバランスを崩して浴槽に落ちそうになり、強い恐怖心とショックを味わいました。
その後も入浴が嫌だと訴えたのですから、恐怖心はそのままAさんの記憶に残り続けたのです。
このように、生死にかかわるような目に遭うと強い恐怖心とショックを受け、しばらくフラッシュバックに悩まされるなどのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出ることがあります。
人が受ける精神的ショックをあなどってはいけません。
事故寸前でも利用者が強い恐怖心やショックを受けたような場合は、たとえ目に見える被害がなくても「事故扱い」として、管理者から本人・家族への謝罪など、適切な対応が必要になるのです。
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