Aさん(女性)
・アルツハイマー型認知症
・記憶障害が顕著に見られ、相手が言ったことを覚えられないため、言葉だけの会話はつじつまが合わないことも多い
・野菜の話をするときは、実物を見ながらだと比較的スムーズに会話ができる
・2週間前に介護老人保健施設に入所
入所当初から布団に入ってもなかなか眠れない様子で、職員が声を掛けても「昔から冷え性で足が冷たくてなかなか眠れんのや」と話されます。
眠れず、することもないため、フロアに出てきてボーッとテレビを見ていることが多くあります。
24時過ぎには眠りにつくものの、睡眠時間が短いせいか、朝起きても「何か頭がボーッとするし、しんどいわ」と言って、朝食にもほとんど手をつけない状態です。
何とか入眠を促そうと、職員は足浴の実施を提案しました。
足浴バケツを準備し、「足浴をしませんか? 気持ちいいですよ。これをしたらよく眠れますよ」と声を掛けましたが、「気持ちいいんやったら、あんたがしたらいいがな。わしはええわ」とあっさり断られてしまいました。
記憶障害を補い、「足浴」をイメージしやすくする
Aさんには足浴をする習慣がなく、初めて耳にした「足浴」という言葉に対して不安があるのではないかと考えました。
そこで、スタッフは足浴について丁寧に説明しましたが、記憶障害があるため理解が難しい様子でした。
また、スタッフからは「説明だけでは何をどうするのかがイメージしにくいのでは?」「1回でもやってくれたら気持ちよさが分かるのに…」という意見が出ました。
スタッフがAさんの前で実際に足浴をしてみるのが一番分かりやすいのではないかということで、テレビを見ているAさんに「私もここで一緒に見てもいいですか?」と声を掛け、Aさんの横で足浴を実施しました。
Aさんに興味を持ってもらうため、あえて「あ~気持ちいい!」と声に出し、気持ちよさそうな表情を意識しました。
人として当たり前の感情をケアに取り入れる
足浴をするスタッフを見ていたAさんが「気持ちよさそうやなぁ。それは足のお風呂みたいなもんか?」と話し掛けてきたので、別のスタッフが「よかったらもう一つありますので、Aさんもテレビを見ながら一緒にどうですか?」と誘うと、「そうか、じゃあやってみようかな」と言うAさん。
初めての足浴に気持ちよさそうな表情を浮かべ、「温かくて気持ちいいわ。ぽかぽかして天国やな」と笑顔を浮かべました。
気持ちよさを覚えてもらうため1週間ほど職員も一緒に足浴をしていましたが、それ以降はAさん一人でも足浴ができるようになりました。
また、足浴をしたことで少しずつ入眠時間が早くなり、朝はすっきり目覚めて、朝食もしっかり食べられるようになりました。
アルツハイマー型認知症の「疾患」を意識し、主症状である記憶障害を補い、イメージしやすいように隣で実際にやってみたことが功を奏しました。
また、「人」を意識した場合、私たちも人がしているのを見て楽しそうだなと思ったら自分もしてみたくなるし、おいしそうだなと思ったら自分も食べてみたくなる、そんな当たり前のことをケアに取り入れることの大切さを感じました。
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